「JAPAN TAX AGENCY」実在しない税務機関を騙る詐欺メール——パラグアイ発、正体はActiveMail(Webメール)のログイン情報を盗む罠

確定申告や事業の税務手続きは、9月に入っても何かと気になる話題ですよね。そんな心理につけこむように、実在しない「税務機関」を名乗る英文まじりの通知メールが届きましたので解析します。個人ではなく、企業の代表メールアドレス宛てに複数通確認されており、サーバーやドメインの管理者を狙った手口とみられます。
「JAPAN TAX AGENCY」という機関は実在しません。このメールは真っ赤な偽物です。文中のボタンや「セキュア・クライアント・ポータル」のリンクは絶対にタップ・クリックしないでください。サーバー管理をされている方は、特にご注意ください。

▲ 実際に届いたメール画面。差出人・宛先は伏せています。
詐欺メール本文の再現
※以下は届いた詐欺メールの本文をそのまま再現したものです。宛先部分は伏せています。
JAPAN TAX AGENCY 事業レビューに関するお知らせ 事業税務記録の確認に関する通知 日付:2026年9月1日 【状況および必要な対応】 レビュー状況:クライアントの確認待ち 対応が必要です:貴社の事業情報をご確認のうえ、税金還付の選択肢についてご検討ください。 〇〇 様 JAPAN TAX AGENCY(日本税務当局)に貴社のアカウントに登録されている 事業情報の確認についてご連絡いたしました。この確認は、登録内容を 最新の状態に保つとともに、適切な専門家と関連する税務対策について 協議できるようにすることを目的としています。 レビュー状況:クライアントの確認待ち 要対応:貴社の事業情報をご確認のうえ、税金還付の選択肢について 当社のチームとご検討ください。 ご利用のメールサービスの安全なクライアント用ウェブメールポータルを ご利用いただくか、弊社の担当者まで直接ご連絡ください。弊社チームに ご提供いただいた情報を確認し、適切な今後の手順についてご案内いたします。 審査を円滑に進めるため、事業内容および連絡先情報が正確であることを ご確認ください。 [ボタン:セキュア・クライアント・ポータルにアクセスする] 心から、 JAPAN TAX AGENCY クライアントサービスチーム ――― 本連絡は、日本の税務当局より提供されるものです。 © 2026年 日本の税務当局。All rights reserved.
■ そもそも「JAPAN TAX AGENCY」という機関は存在しない
日本の税務を所管するのは国税庁(National Tax Agency)ですが、この機関がメールに「JAPAN TAX AGENCY」という自称の英語名を用いることはありません。またフッターの「日本の税務当局」という表現も、公式の日本語文書には出てこない不自然な言い回しです。実在しない機関を名乗っている時点で、詐欺と断定できます。
送信ルート及び偽装判定
■ SPFレコードそのものが存在しないドメイン
差出人アドレスに使われているjapantaxagency.jpは、SPF認証の結果が「None(SPFレコードなし)」でした。正規の組織であればまず整備されているはずのSPFレコードが最初から存在しない時点で、急ごしらえの使い捨てドメインである可能性が高いといえます。実際、このドメインは現時点で名前解決すらできず、Webサイトとしての実体を持っていません。
■ 送信元はパラグアイの一般家庭向け回線
メールを実際に送信したサーバーのIPアドレスは45.229.168.145で、ホスト名は145.168.dynamic.fulltelecom.com.pyでした。「.py」は南米パラグアイの国別ドメインで、「dynamic」の文字が示す通り、これは企業のメールサーバーではなく一般家庭向けインターネット回線の動的IPアドレスです。日本の税務機関を名乗りながら、実際には南米の家庭用回線から送信されているという矛盾があります。
※本記事の送信元IP・所在地情報はReceived-SPF: client-ip=行を正としており、Heart側の受信システムが付与する内部メタデータは判定に使用していません。
■ 文字化けの正体——数値文字参照が改行で分断されていた
メール本文の一部に「 7;」「481;」のような意味不明な文字が混入していました。これはメール本文が「quoted-printable」という形式でエンコードされており、日本語の1文字ずつを`の`のような数値の文字コードで表現する仕組み(HTML数値文字参照)が使われていたためです。この数値の並びが、メール規格上定められた76文字ごとの改行位置とたまたま重なってしまい、コードの途中で改行が入って分断された結果、正しく表示されなくなったと考えられます。
発見方法:受信したメールのソース(元データ)をテキストエディタやメールクライアントの「メッセージのソースを表示」機能で開くと、`&#`から始まる数字の羅列が本文中に大量に埋め込まれているのが確認できます。手作業でHTMLを組み立てるフィッシングキットにありがちな、作りの粗さを示す痕跡です。
💡「ここで!」用語解説:ActiveMailって何?
ActiveMail(Active!mail)は、ブラウザ上でメールの送受信ができるWebメールサービスの製品名で、レンタルサーバー会社がホスティング契約者向けの標準機能として提供していることが多いソフトウェアです。詐欺師はこの見覚えのあるログイン画面を偽造し、ユーザID・パスワードを入力させて盗み取ろうとします。盗まれたアカウントは、さらに別の詐欺メールを送るための踏み台にされることもあります。
フィッシングサイト詳細解析——3段階のリダイレクト
■ 第1段:正規のメール配信計測サービスを隠れ蓑に
本文中の「セキュア・クライアント・ポータルにアクセスする」ボタンのリンク先は、click.kit-mail3.comというドメインでした。これはメール配信の開封・クリック計測を行う正規サービス「Kit(旧ConvertKit)」のクリックトラッキング機能で、URLの中に本来の飛び先がBase64という形式で埋め込まれています。正規サービスを経由させることで、メールフィルターの目を欺く狙いがあると考えられます。
■ 第2段:Heart側のシステムが送信時点で「フィッシング」と判定
上記のトラッキングリンクをたどると、hxxps://elseweby[.]net/active-mail/kagoya.htmlへ転送されます。当ラボの受信システムでは、このメールが届いた時点で既にこのURLを「phishing(フィッシング)」と判定していました。加えて、実際にウイルスバスター クラウドとGoogle Chromeのセーフブラウジング機能の両方が、それぞれ独立にこのURLへのアクセスをブロックしています。

▲ ウイルスバスター クラウドが「安全ではない可能性」として即座にブロック。

▲ Chromeもセーフブラウジング機能で同一サイトへのアクセスを警告している。
■ 第3段:「人間確認」を装うゲートを経由
警告を回避して先へ進むと、shelterline[.]comという別ドメインで「Verifying you are human(人間であることを確認しています)」という画面が表示されました。よく似た仕組みを持つ正規のセキュリティサービスも存在しますが、このドメインの実体は50.28.99.184(米国内の一般的な共有ホスティング環境)で、そうした正規サービスとは無関係です。このような「確認中」の画面をわざと挟むことで、自動的にサイト内容をチェックするセキュリティツールを足止めし、正規のサービスに見せかける狙いがあると考えられます。

▲ 人間確認を装う中継ページ。実体はセキュリティサービスとは無関係の一般的な共有ホスティングだった。
■ 最終段:ActiveMailの偽ログイン画面
最終的に表示されるのは、Webメールサービス「Active!mail」にそっくりなログイン画面です。ユーザID・パスワードを入力すると、そのままメールアカウントの認証情報が詐取されます。ここでIDやパスワードを一切入力しないことが最も重要です。

▲ 本物そっくりに作られたActiveMailの偽ログイン画面。
なぜ「代表アドレス」が狙われたのか
今回のメールは、個人のメールアドレスではなく、企業の代表窓口として使われるようなアドレス宛てに複数通届いています。Webメールのログイン情報を盗む目的から考えると、こうした代表アドレスやドメインの管理を担当するサーバー管理者・システム担当者のアカウントを乗っ取ることで、社内の他のメールアドレスへの不正アクセスや、さらなるなりすましメールの踏み台にする狙いがあると考えられます。
注意点と対処法
- 実在しない機関名に注意:「JAPAN TAX AGENCY」のような、公式には存在しない英語の機関名を名乗るメールは詐欺と判断してください。
- Webメールのログイン情報は、メール内のリンクから入力しない:ActiveMailなどのWebメールへは、必ずご自身でブックマークした正規のURLからアクセスしてください。
- セキュリティソフトの警告を無視しない:ウイルスバスターやChromeなどが警告を出した場合は、そこで引き返してください。
- 企業の代表アドレスは特に注意:info@やadmin@のような代表アドレスは狙われやすいため、複数人で確認する体制やパスワードの定期変更、可能であれば多要素認証の導入をおすすめします。
- 万が一入力してしまったら:直ちにWebメールのパスワードを変更し、不審なログイン履歴やメール送信履歴がないか確認してください。
本レポートの結論
「JAPAN TAX AGENCY」を名乗るこのメールは、実在しない機関を装い、企業の代表アドレスからWebメールのログイン情報を盗み取ろうとする詐欺メールです。パラグアイの家庭用回線から送信され、正規のメール配信計測サービスや「人間確認」を装うページを経由するなど手が込んでいる一方、機関名やドメインは急ごしらえで、SPFレコードすら整備されていないという杜撰さも同居していました。セキュリティソフトの警告が出たら、そこで立ち止まることが何より大切です。この記事のURLを社内やご家族と共有して、注意を呼びかけてください。
調査日:2026年9月2日 / Data Provided by Heartland-Lab Security Research Unit
※本記事に記載のIPアドレス・ロケーション情報は調査時点のものであり、日々変化する可能性があります。
根拠データ参照元:ip-sc.net
使用配色テーマ:Charcoal(PRIMARY #2b2b2b / ACCENT #cc0000)














